story

easy

「なんだかなあ」 その言葉で、直人は店員の去って行く後姿を追っていた視線を前に戻す。 少し食事をするには心もとない円形の小さなテーブル越しに、切れ長な目をさらに細め怪訝そうな亜紀の視線とぶつかる。 こういう彼女の何かを悟ったような言動に、いち…

oto

急に周りの音が消え、雨音だけが残ったような気がした。 店内にさっきまで邪魔にならない程度に流れていた音楽が止まったのを境に、隣の学生風な若い女子二人組の耳につく笑い声が止み、カウンターで話し込んでいた年配の客と店員との会話も途切れた。 店内…

記憶

ちょうど席に着いたと同時ぐらいに、さっきまでなんとか傘がなくても歩けるぐらいの静かな雨だったのが、建物の屋根や地面に激しく叩きつける音で周囲を全て包み込むような激しい横殴りの雨に変わった。やっぱり立ち寄ってよかった、とその激しい雨の中を必…

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ガラスの向こう側にもまだ店が続いているような錯覚に陥る。 ゆったりと奥行がとられた木のカウンターの、少しひんやりとした感触を頬に感じながら正人は思う。 この店のカウンター横には大きな額縁のような窓が設けられていて、日が落ちると暗闇に店内が写…

8周年

ふと振り返った瞬間、啓太が入って来たように見えた。 ぐるぐると黒い液体をかき混ぜながら、その渦を巻くカップの中心を何気なくぼんやり眺めていた。 その時、外の冷えた空気がドアが開けられたと同時に店内に流れ込み、朱美は今、気付いたように、運ばれ…

cafe屋襲撃

いつの時期なのかよく覚えてはないのだが、朝早くに天井から奇妙な音が聞こえてくることがあった。 一時のことなので、すぐに忘れてしまうのだが、聞こえてくる時はすごく気になってしかたないぐらいの音で、寝ぼけ頭にはこたえる。 しばらくしてそれはカラ…