台風一過

「穏やかやね」カウンター越しにかけられる声に窓のほうに目をやる。
そこから見渡せる景色は確かに「穏やか」以外何ものでもないように見える。歩道をゆっくりと歩く人や、昨日とは違い、どこかのんびりと走っているように見える車の風景が。

朝、店を見た時は「さて、どうしたものか」と最初に思った。一階の駐車スペースは、無残にも折られた枝や、なぜか小さく切り刻まれたような葉っぱが散乱していて、店のテラススペースも同じように、汚れた雨水や、葉っぱや枝が落ち、窓ガラスは当然ながら汚れ、小さな葉っぱまで張り付いている始末。それを見ながら、どこから手をつけていけばよいのか、寝ぼけた頭で考え込んでいたのだ。

そんな光景をつい今朝、目の当たりにしてただけに、その窓越しの「穏やかさ」があまりにも不自然に思えてならなかった。「激しさ」から「穏やかさ」に。その差が嘘のような表情を見せる風景。
その「穏やかさ」の中に台風は自分の力を示すかのように「形跡」を残していく。
自然の力というものが、すごく身近に感じた夜でした。叩きつける風と雨で木々たちを押し倒し、飛ばせるものは飛ばしてしまう。その力に僕らはたいして抗う力も持ち合わせていない。

なのに、またこうしてその自然の「穏やかさに」、少し心を落ち着かせることができる。自然が見せる感情みたいなものなのだと思ったりする。その感情に僕らは触れることができる。人と触れあうように。